今回は慢性的に続く腰痛のエクササイズとして有効な体幹の安定化運動(インナーマッスルを鍛える運動)を紹介します。
ちなみに原因のはっきりしない腰痛(非特異的腰痛)は腰痛持ちの方の内の85%となっており(厚生労働省)、その中で慢性的(3か月以上続く)に腰の痛みを感じている方の対処法としては運動やストレッチが特に効果が高いと整形外科や理学療法のガイドラインに記載されています。
目次
体幹安定化(インナーマッスルを鍛える事)の重要性
そもそも人は動作をする時に特定の筋肉だけ働いている訳ではありません。例えば、立った状態で右手を大きく上げようと思った時、肩を上げる主動作筋の三角筋だけ働く訳ではなく、肩周囲の色々な筋肉が働いています。それに加えて、肩を上げる事で姿勢を崩さないように体幹の筋肉にも力が入っています。
ただ、右手を上げる時に姿勢を崩さないように体幹の筋肉に力を入れようと意識する事は普段ないはずです。
それは生まれてから今までの運動経験により、どこに、どの程度力を入れれば姿勢を崩さずにいれるかという事を脳が学習しており、自動的に筋肉に力が入るようになっているからです。
つまり、右手を上げようと意識した時に、姿勢を安定させるため右手を上げるよりも一瞬速く体幹の筋肉に適切な力が勝手に入ります。ここで、姿勢を崩さない事や関節を安定させるために自動的に働く筋肉をインナーマッスル(深層筋)と呼んでいます。体の内側にある筋肉の事です。
そして、体幹部のインナーマッスルは人間のほとんどの動作で姿勢を安定させるために働く重要な筋肉なんです。
つまり体幹安定化(インナーマッスルを鍛える事)は、特定の関節への負担を減らしたり、姿勢を保つために重要なんです。
慢性腰痛者は体幹(お腹や背中周囲)のインナーマッスルが機能していない
腰痛者は、急激な四肢の運動に対し、先行的に腹横筋を活動させ体幹を安定する機能が十分でない
腰痛の病態別運動療法:金岡 恒治 編,(株)文公堂,2016年第1版発行
そして慢性腰痛の方は体幹の筋肉が上手く機能していないという事が分かっています。
普段使われない筋肉は委縮してしまうため、腰痛者の体幹のインナーマッスルは委縮したり、左右で非対称になったりしています。その結果、姿勢の崩れや痛みを引き起こす一因となります。
そのため委縮した筋肉を健常に戻す事と普段の生活上で使えるようにする事は慢性腰痛に対して超重要なんです。
ただ、インナーマッスルは身体を動かす時に自動的に働いている筋肉なので、インナーマッスルをターゲットにして働かせるのは難しいです。
体幹安定化運動の実践
実践前に知っておくべき事
筋力強化を目的としたトレーニングの筋活動量の目安としては、最大収縮の45~66%以上の活動量が必要であるとされている。一方、腰椎安定性を制御するには、30%以上の活動量で十分であると報告されている。
そのため、分節的な腰椎安定性を目的としたエクササイズでは高負荷なエクササイズを処方する必要はなく、30~40%の中等度のエクササイズで十分である
腰痛の病態別運動療法:金岡 恒治 編,(株)文公堂,2016年第1版発行
筋力強化というと高負荷を使うというイメージがありますが、インナーマッスルをはたらかせる場合は低負荷で行います。高負荷はアウターマッスルが主に働きます。健常なら高負荷でもインナーマッスルは正常に働きますが、慢性的な痛みを抱えている方は高負荷でのエクササイズはアウターマッスルばかりが過剰に働き、インナーマッスルの活動が不足します。
そのため、まずは低負荷のエクササイズでインナーマッスルを使う事に慣れるところから始めます。十分慣れてから、エクササイズのレベルを上げて日常生活動作やスポーツ動作など各種の動きにインナーマッスルを使えるようにしていきます。
インナーマッスルのトレーニングは、上手く出来ているどうかが分からないという欠点があります。そんな時は次の2点を注意して下さい。きっと上手く使えているはずです。
- 手足や肩は力まない(必要最小限の力で)
- なるべくグラグラしない(グラグラしないで姿勢をキープしようと意識する事でインナーマッスルが上手く働く)
基本となるのはドローイン
ドローインとはお腹の凹ませる運動の事です。腹横筋というインナーマッスルを活動させるエクササイズです。この運動は腹直筋などアウターマッスルの活動を抑制し、腹横筋を集中して効かせる事が重要です。地味な運動で、簡単そうに見えるんですが結構難しいです。
やり方は
- あお向けで両ひざを立てる
- 大きく息を吐いてお腹を凹ませる
とシンプルだけど、頑張ってお腹を凹ませようとするとアウターマッスルの腹直筋が働いてしまうため、お腹を凹ませる意識はそれ程必要ではない。大きく息を吐き切る事に意識を向ける。
おすすめのハンドニー
ハンドニーとはハンド(手)とニー(膝)という言葉を合わせたエクササイズの名称です。
ハンドニーは背中側とお腹側の両方のインナーマッスルに効いて、安全に行えるため、腰痛者や高齢者にお勧めする超万能エクササイズです。
注意点としては、体幹の姿勢を保持するようにする事です。腰の骨が極端に反ったり曲がったりしないようにする事が重要です。
- 両手、両ひざをついた四つ這い姿勢をとる
- 片足を上げて姿勢をキープする(出来るだけ背中とまっすぐになるように)
- 余裕がある方は片手もあげる(2で上げた足の反対側の手)
背中側にはバックブリッジ
ハンド二ーに慣れてきて、もう少し難易度の高いエクササイズをしたいという方はバックブリッジというエクササイズをお勧めします。
バックブリッジは主に背中側の筋肉を働かせる効果があります(多裂筋、脊柱起立筋など)。
- おあむけになり両ひざを立てる
- お尻と背中を浮かす
- 膝から肩まで一直線にして、その姿勢でキープ
姿勢をキープする時にグラグラしないようにする事でインナーマッスルが働く。そのため勢いをつけたりテンポよくやってはダメ
お腹側にはエルボートゥー
ハンド二ーに慣れてきて、もう少し難易度の高いエクササイズをしたいという方はエルボー(肘)トゥー(つま先)もお勧めします。
エルボートゥーは主にお腹側の筋肉を働かせる効果があります(腹横筋、腹斜筋など)。
- 両肘と両つま先をついた姿勢をとる(腕立て伏せの肘バージョン)
- 片足を上げて姿勢をキープする(出来るだけ背中とまっすぐになるように)
- 余裕がある方は片手もあげる(2で上げた足の反対側の手)
上記のエクササイズ全てそうなのですが、腰が反ったり曲がったりしないようにする意識が重要です。
まとめ
- 慢性的に続く腰痛者のエクササイズとして体幹安定化運動は有効
- 体幹安定化とは、動作をする際に体幹のインナーマッスルを適切に働かせる事で、腰痛持ちはインナーマッスルの働きが十分ではない事が多い
- インナーマッスルのエクササイズは低負荷(最大収縮の30%程度)で行う
- インナーマッスルの使い方が十分身体に沁みついてきたら、徐々にエクササイズの難易度を上げる事でアウターマッスルとインナーマッスルを同時に使えるようにしていく
- 個人的にはハンドニーから入るのがお勧めです(ドローインが基本ですが、結構難しいためハンドニーをやって痛みが出ないのであればこの運動からが良いと思っています)
ちなみに紹介したドローインは腹横筋というお腹のインナーマッスルを集中的に使うエクササイズですが、ハンドニー、バックブリッジ、エルボートゥーなどはインナーマッスルとアウターマッスルを同時に使っていくエクササイズです。
エルボートゥーでは腹筋群の共同収縮、ハンドニーでは中等度の腹筋・背筋の共同収縮、バックブリッジでは背筋群の共同収縮、サイドブリッジでは外腹斜筋の活動量が大きくなる傾向を示した。
大久保 雄:腰痛におけるcore exerciseの実際.臨スポーツ医30:721-726,2013.
無理ない範囲で続けてください。
以上です
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